総量規制とは、年収の3分の1を超える借入れを制限する規定のことです。
総量規制の目的は、貸金業者による消費者への過剰な貸付けを抑制することにあります。しかし、制限以上のお金を必要としている方は、総量規制の対象外の借入れについて知りたいのではないでしょうか。
本記事では総量規制の概要や、適用対象外となる「除外貸付」と「例外貸付」について、1級FP技能士の筆者が詳しく解説しています。総量規制でこれ以上借入れできない場合の対処法についても紹介しているため、ぜひ参考にしてください。
三浦 雅也(CFP/ 1級FP技能士)
大学卒業後、難しい用語を使わずに分かりやすくお金の知識を伝えたいと考え、独立系のFP事務所、保険会社での勤務を経てファイナンシャル・プランナー/ライターとして独立。現在はクレジットカード、保険の記事を中心とした執筆活動を行っている。
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総量規制とは年収の3分の1を超える借入れを制限する規定
総量規制とは、返済能力を超えた過剰な貸付けを禁止する規定のことです。個人が貸金業者からお金を借りる際は総量規制により、年収の3分の1を超える額は借りられません。
例えば、現在の年収が300万円の場合、借入総額は100万円までです。
なお総量規制は、貸金業者を対象とした貸金業法により定められています。そのため、貸金業者でない銀行などのローンや、信販会社の信用販売(ショッピングクレジット)は総量規制の対象外です。
「総量規制の対象となる借入れ」については後述します。
総量規制が定められた背景
総量規制は過剰な貸付けを抑制し、「過度な借入れから消費者を守ること」を目的に創設されました。
総量規制が定められた背景には、深刻な多重債務問題があります。借入れが容易なシステムや、借り手の金融知識・返済計画の不足が問題視されていたため、その対策として総量規制が導入されたのです。
また、総量規制の導入と併せて、指定信用情報機関制度も創設されました。この制度の目的は、貸金業者が消費者の総借入残高や支払い能力などを客観的に把握できるようにすることです。
CICやJICCといった信用情報機関に登録された信用情報を利用し、顧客へ過剰に貸付けることを抑制できます。
そのため、貸金業者が個人と貸付けの契約を締結した場合、氏名や貸付金額などの信用情報を指定信用情報機関へ提供することが義務づけられています。
参照:金融庁「貸金業法が大きく変わりました!」
日本貸金業協会「お借入れは年収の3分の1まで(総量規制について)」
総量規制の対象となる借入れ
総量規制の対象となる借入れには、以下のようなものがあります。
カードローン(消費者金融・信販会社)
貸金業者(消費者金融や信販会社など)が提供しているカードローンは、総量規制の対象です。カードローンとは、利用限度額の範囲内でお金を借りられる個人向け融資サービスのことです。
クレジットカードのキャッシングよりも利用限度額が高めで、金利は低めに設定されています。
なお、貸金業者でない金融機関のカードローンは、総量規制の対象外です。銀行や信用金庫などは貸金業者ではないため、総量規制は適用されません。
ただし、各銀行では総量規制と同様の自主規制を行なっている場合もあります。
年収の3分の1を超えた借入残高があると、銀行でもお金を借りられない可能性が高いでしょう。また、金利が低めに設定されていることから、銀行のカードローンの審査は厳しいともいわれています。
クレジットカードのキャッシング
クレジットカードのキャッシングは、提供するクレジットカード会社が貸金業者として現金の貸付けを行なうため総量規制の対象です。キャッシングとは、ATMやインターネットバンキングなどを通じてお金を借りられるサービスのことです。
カードローンよりも利用限度額は低く、金利は高めに設定されているのが特徴です。
クレジットカードのキャッシング枠は、ショッピング枠とは別枠で儲けられており、カード作成時などに申し込むことができます。
いつでもお金を借りられて便利な反面、金利が高く、キャッシングを利用する際は注意が必要です。
なお、クレジットカードのショッピング枠は総量規制の対象外です。また、リボ払いや分割払いによるショッピングでは「割賦販売法」が適用されます。
複数の貸金業者からの借入れは合計額が対象になる
総量規制の借入額は1社だけを対象にするものではなく、複数の貸金業者からの借入れ合計額が対象となります。
仮に年収が300万円として、貸金業者Aから80万円を借りている場合、貸金業者Bからは20万円までしか借りられないということです。それぞれの貸金業者で最大100万円を借りられるわけではない点に注意しましょう。
なお、1社で50万円を超えてお金を借りた場合、もしくは複数社で100万円を超えてお金を借りた場合は、収入証明書類(源泉徴収票など)の提出が必要です。
借入れが3分の1を超えていても借りられる総量規制の対象外の借入先
一部の借入れについては、年収の3分の1を超えても総量規制の対象外です。ここからは、総量規制の対象外となる「除外貸付」と「例外貸付」について解説します。
除外貸付
除外貸付とは、総量規制の適用が不適当とされている貸付契約です。住宅ローンや自動車ローンなど債務額が多額な契約については、総量規制になじまないとして総量規制の対象になりません。
総量規制の除外貸付には、以下のようなものがあります。
- 住宅ローン
- 自動車ローン
- 高額療養費の貸付け
- 有価証券を担保とする貸付け
- 不動産を担保とする貸付け など
例外貸付
例外貸付とは、顧客の利益の保護に支障を生ずることがない貸付契約のことです。緊急の医療費やおまとめローンなど、必要性・緊急性が高いものは総量規制を超える貸付けが例外的に認められています。
総量規制の例外貸付には、以下のようなものがあります。
- 顧客に一方的に有利となる借換え(おまとめローンなど)
- 配偶者と合わせた年収3分の1以下の貸付け(配偶者の同意が必要)
- 緊急に必要な医療費を支払うための資金の貸付け
- 個人事業主に対する貸付け(一定の要件を満たした場合)
- 新たに事業を営む個人事業主への貸付け(一定の要件を満たした場合)
- 預金取扱金融機関からの貸付けを受けるまでの「つなぎ資金」にかかる貸付け など
返済能力以上の借入れができるわけではないので注意
除外貸付や例外貸付に該当する契約であったとしても、返済能力以上の借入れができるわけではありません。
除外貸付に該当する住宅ローンなどでは所定の審査が行なわれます。また、一部の例外貸付では、返済能力に問題がないことを証明する必要があります。
総量規制を超える範囲でお金を借りられたとしても、借金であることには変わりません。ご自身の返済できる範囲で計画的に利用することが大切です。
総量規制でこれ以上借入れできないがお金が必要な場合の対処法
どうしてもお金が必要な場合の対処法には、以下の3つのようなものがあります。
即日払いのアルバイトでお金を稼ぐ
まずは、働いてお金を稼ぐ方法を考えましょう。すぐにお金が必要な場合は、日雇いのアルバイトを探すとよいでしょう。日雇いのアルバイトのなかには、働いた分の給料をその日に受け取れる場合があります。
給料の即日払いが多い業種は、引越しなどの配送業や建設業、イベントスタッフなどです。また最近では、スマートフォンのアプリから簡単に登録できて、給料が即日入金されるサービスも登場しています。
親族や友人に相談してお金を借りる
どうしてもすぐにお金が必要な場合は、親族や友人に相談する手段もあります。身近な人には、お金のことを相談しにくいと感じる方も多いでしょう。しかし、周りに相談せずにお金を準備しようとすると、やってはいけない方法で金策に走ってしまうこともあります。
クレジットカードのショッピング枠を現金化したり、ヤミ金からお金を借りたりすると、トラブルに巻き込まれる可能性もあるため絶対に借りてはいけません。
親族や友人に誠意を示してお金を借りる場合は借用書を作成し、返済期限や月々の返済金額を明確に定めておきましょう。
なお、借用書がなくても貸し借りは成立しますが、返済期限を定めずにお金を借りると、借入額が贈与と判断され、贈与税の対象になる可能性があります。
親や祖父母などから無利子でお金を借りた場合、利子相当額が贈与の対象です。「あるとき払いの催促なし」「出世払い」といった形式でお金を借りると、その金額が贈与とみなされるため注意が必要です。
参考:国税庁 タックスアンサー(よくある税の質問)「No.4420 親から金銭を借りた場合」
公的融資制度を利用して国からお金を借りる
生活に困るほどお金が必要な場合は、公的融資制度の利用を検討するとよいでしょう。
都道府県の社会福祉協議会では、必要な資金を他で借りられない低所得世帯(市町村民税非課税)に対して、生活福祉資金貸付制度を設けています。
「生活再建に必要な費用」や「滞納している公共料金の立て替え費用」などを無利子、または年率1.5〜3.0%程度の低利率で借りられます。
資金の種類 | 概要 | |
総合支援資金 | 生活支援費 | 生活再建に必要な生活費の貸付け |
住宅入居費 | 住宅の賃貸契約に必要な費用の貸付け | |
一時生活再建費 | 就職・転職に必要な技能習得の経費滞納している公共料金の立て替え費用債務整理に必要な経費など、生活再建に一時的に必要な費用の貸付け | |
福祉資金 | 福祉費 | 生業を営むために必要な経費福祉用具等の購入に必要な経費介護サービス等を受けるために必要な経費冠婚葬祭に必要な経費など、日常生活に必要な費用の貸付け |
緊急小口資金 | 緊急かつ一時的に生計の維持が困難となった場合に必要な少額費用の貸付け | |
教育支援資金 | 教育支援費 | 高等学校や大学、高等専門学校へ修学するために必要な費用の貸付け |
就学支度費 | 高等学校や大学、高等専門学校へ入学するために必要な費用の貸付け | |
不動産担保型生活資金 | 不動産担保型生活資金 | 低所得の高齢者世帯に対して、一定の居住用不動産を担保とした生活費用の貸付け |
要保護世帯向け不動産担保型生活資金 | 要保護の高齢者世帯に対して、一定の居住用不動産を担保とした生活費用の貸付け |
事情があって働けない、親族などに頼れる人がいない場合は、生活保護制度を検討する手段もあります。生活保護の申請は国民の権利です。生活が苦しくてお金を必要としている方は、ためらわずに最寄りの自治体に相談しましょう。
まとめ
総量規制は、過度な借入れから消費者を守るために創設された貸金業法上の規定です。
年収の3分の1を超える借入れは原則として総量規制の対象です。ただし、除外貸付や例外貸付に該当する場合はお金を借りられる可能性があります。必要に応じて、おまとめローンなどの利用を検討するとよいでしょう。
総量規制によりお金を借りられない場合は、日雇いのアルバイトなどでお金を稼ぐ、親族や友人にお金を借りるといった方法があります。ほかにも、公的融資制度では無利子もしくは低利率で貸付けが可能です。
それでも生活が厳しい場合、家賃の支援や生活保護が受給できないか、自治体へ相談することをおすすめします。どれだけ生活が厳しくても、クレジットカードのショッピング枠を現金化したり、ヤミ金でお金を借りたりしてはいけません。