近年多くのBtoB企業に導入され、従来とは異なる新しい営業プロセスの概念として注目されている『THE MODEL(ザ・モデル)』。
この記事では、書籍『THE MODEL』で紹介されている王道戦略についてわかりやすく解説し、実例を交えたTHE MODEL運用の注意点を紹介します。
この記事で紹介している失敗しがちな落とし穴については以下のシリーズ動画でも解説しています。
またBtoBマーケティングについての概要は、以下の記事も併せて参考にしてください。
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THE MODEL とは
THE MODELは、CRM(顧客関係管理)ソフトウェアで世界シェアトップを誇るセールスフォース・ドットコム社で活用されてきた、営業プロセスのモデルです。
2019年に発刊された福田康隆氏の著書『THE MODEL』内で紹介されたことで注目を集め、既存の営業プロセスとは異なる概念として広く知られるようになりました。
THE MODELの特徴はセールス活動の分業化
THE MODELの大きな特徴は、一連の営業活動を以下の4つの部門に細分化したことです。
- マーケティング
- インサイドセールス
- フィールドセールス
- カスタマーサクセス
THE MODELが知られるようになる前の一般的な営業方法では、1人の営業担当者がすべての業務を行なうケースも珍しくありませんでした。
一方でTHE MODELは、業務の分担によってそれぞれを専業化して各部門の成果を最大化することで、結果として全体の生産性や売上の向上を目指すという概念です。
現在では多くのBtoB企業において、THE MODELの考え方をベースにしたマーケティング戦略が行なわれています。
THE MODELがなぜいいのか
BtoBにおいてTHE MODELが効果的とされる背景には、インターネットの普及による見込み顧客との接点の変化があります。例えば、法人向けビジネスツールを販売している企業の場合、見込み顧客である買い手側の企業から営業資料を請求してくることが最初の接点でした。
しかし近年では、資料請求以前の段階で見込み顧客は競合他社のツールについても調べ、自社と比較していることが少なくありません。初めて接点を持つときには、すでに多くの情報を得ている状態であることが多いのです。
そのため、見込み顧客の持っている情報量に合わせた営業を行なうなど、状況に応じた細やかなアプローチが重要視されるようになっています。容易に比較検討できる現代だからこそ、より質の高い営業が求められるようになっているといえるでしょう。
細分化されたTHE MODELの営業プロセスを導入すれば、顧客ごとの状況に合わせた対応が可能です。
THE MODELの特徴的な仕組みを解説
THE MODELでは、以下4つに分類される各部門のゴールが、次の部門の母数となることが特徴です。全体のプロセスを分業しながらも部門間で協力できるほか、各部門のゴールを成果達成までの中間的な数値目標(KPI)として定めやすくしています。
営業プロセス | 母数×成功率=ゴール(KPIであり、次のプロセスの母数) |
マーケティング | 来訪者数×CVR=リード獲得数 |
インサイドセールス | リード獲得数×案件化率=案件数 |
フィールドセールス | 案件数×受注率=受注数 |
カスタマーサクセス | 受注数×更新率=継続数 |
この項では、THE MODELの営業プロセスについて、一連の流れに沿った仕組みを解説します。
マーケティング
最初のプロセスであるマーケティング部門では、「リード」と呼ばれる見込み顧客の獲得数がゴールです。
自社サイトへの訪問者やセミナー参加者などの「訪問者数」を母数とし、そのなかから問い合わせや連絡先の取得などにつながった成果率(CVR)を高めるための施策を講じます。
具体的な施策としては、訪問者数を増やすためのオウンドメディア運営や広告配信、成果率を高めるためのホワイトペーパー配布などが挙げられるでしょう。
【マーケティング】来訪者数×CVR=リード獲得数
インサイドセールス
インサイドセールス部門では、マーケティング部門のゴールであった「リード獲得数」を母数とし、特にアクティブな層(ホットリード)に対してアプローチすることで、より具体的な案件化を目指します。
メールや電話など、非対面の営業活動(インサイドセールス)によって継続的なコンタクトをとり、次のプロセスであるフィールドセールス部門へつなげる役割です。
インサイドセールス部門の活動は、獲得した見込み顧客の購買意欲を高めることを目的とし、リードナーチャリング(見込み顧客の育成)とも呼ばれています。
インサイドセールス部門のゴールは、フィールドセールス部門へパスできる案件数です。
【インサイドセールス】リード獲得数×案件化率=案件数
フィールドセールス
インサイドセールス部門が獲得した案件数を母数に、より多くの受注(案件の成約)を目指すのがフィールドセールス部門の役割です。
フィールドセールスとは、本来はリードを直接訪問するなど外勤営業を意味する言葉ですが、昨今のコロナ禍では、オンライン営業によって受注まで進むケースも少なくないでしょう。
また、受注前後の対応を同一の営業担当者が行なうことが一般的でしたが、THE MODELでは、受注後の対応は次のプロセスであるカスタマーサクセスへと移行します。
【フィールドセールス】案件数×受注率=受注数
カスタマーサクセス
カスタマーサクセス部門が目指すのは、顧客を成功に導くためのサポートを行ない、フィールドセールス部門が獲得してきた受注の継続契約数を高く維持することです。
顧客ごとの課題に寄り添い、ときにはより良いサービスへの移行を提案するなど、顧客満足度の向上を目指します。
【カスタマーサクセス】受注数×更新率=継続数
このように営業プロセスを4分割するTHE MODELの概念は、それぞれの部門における専門性の向上を可能にし、中間目標であるKPI管理がしやすい優れたモデルです。
特に、継続率が重視されるSaaSを展開しているBtoBビジネスでは、王道のマーケティング手法とされています。
THE MODELのプロセスを導入するメリットについては、次の項でさらに解説します。
THE MODELを活用することのメリット
THE MODELの概念を活用し、従来1人で行なってきた営業プロセスを分業化するメリットについて解説します。
専門性の向上
業務を細分化することは、各部門の専門性向上につながります。
4つのプロセスではそれぞれ異なる知識やスキルが必要なため、1人の担当者がすべて請け負うのは能率的ではありません。
例えば、マーケティング部門が担当するリード獲得は、インターネットの普及によって施策が多様化しています。オウンドメディア運営などの高い専門知識が必要な施策と、他の業務を兼任するのは容易ではないでしょう。
THE MODELの活用で担当業務の幅が限定されると、専門知識を身に付けたり、経験を重ねてスキルを高めたりしやすくなります。
生産性の向上
各部門が専門性を持って取り組むことで業務効率が上がり、全体の生産性向上が期待できます。
従来型の営業方法では、すべての業務に平等のリソースを割くのは難しく、なかなか手が回らない業務があったのも事実です。例えば、受注数を増やすことに忙しく、契約後のアフターフォローがおろそかになれば、継続率は維持できないでしょう。
THE MODELを活用して各部門で担当業務に集中すれば、顧客満足度も上がり、受注数だけでなく継続数を同時に伸ばすことも可能です。
問題点の可視化による営業活動の最適化
THE MODELの導入により、今後の営業活動を最適化するために改善すべき問題点を見つけやすくなります。部門ごとのゴールとなるKPIを定めることで、達成率の低い部門が明らかになるためです。
受注数だけをKPIにしがちな従来型の営業活動には、仮にKPIを達成できなかった場合、どのプロセスに問題があったかがわかりにくいという弱点があります。
反対にKPIを達成できたケースでも、成功要因が明確でなければ、今後の活動に反映できません。
細かにKPIを設定するTHE MODELによって問題点が明らかになれば、営業活動の最適化が加速するでしょう。
属人性リスクの低下による安定性の向上
営業活動を分割するTHE MODELでは、安定して業務を継続できるというメリットもあります。1つの案件に対して複数の担当者が関わることで、一部の人材が退職・転職などをしても、営業力の低下を抑えることが可能です。
特定の担当者に頼りがちな従来型の営業活動は属人性が強く、状況の変化によって安定性が低下するリスクを抱えています。
リスクを分散し、長期的に安定した営業活動を行なうため、THE MODELの導入は効果的といえるでしょう。
THE MODELを運用する際の注意点
THE MODELは優れた営業プロセスの概念ですが、すべてのケースでそのまま取り入れることが成果につながるとは限りません。
この項では、サクラサクマーケティング株式会社がTHE MODELを活用した際に起きた問題から、考えられる注意点を解説します。
最終目的とのズレが起きやすい
部門ごとのKPIを細かに設定すると、各自が目の前の目標にこだわり過ぎるあまり、最終目的からズレた活動をしてしまうおそれがあります。
営業活動の最終目的は、あくまでも受注数と継続率を増やすことですが、前段階となるプロセスでは目的を見失いがちになるため、注意しましょう。
例えば、マーケティング部門のKPIはリード(見込み顧客)獲得数ですが、数を増やすことのみにとらわれると、成約見込みの低いユーザーまで引き込んでしまいかねません。
そうなれば、部門でのKPIは達成しているものの、最終的な成果にはつながらないという事態に陥ります。
部分最適化を目指すことが、結果として最終目的達成の弊害となっていないかを振り返りながら、プロセスを進めることが重要です。
以下の動画では、部分最適化の弊害について解説しています。
部署間の連携問題
営業活動の細分化は、従来の営業方法では発生しなかった、部門間の連携問題を招くおそれがあります。
他部門の業務に関与できない
例えば、インサイドセールス部門は、マーケティング部門が獲得したリードに対してアプローチを行ないますが、そもそもリードの質が低く、案件化につながりにくいケースもあるでしょう。
インサイドセールス部門内では解決できない問題であり、他部門には関与しにくいため、このケースではリードの質を高めることが困難です。
部門ごとの優劣
目指す目標は同じでも、部門によって優劣の差があるような印象が社内に生じかねません。特に従来型の営業イメージを引きずっていると、直接的に顧客と接し、受注を獲得するフィールドセールス部門が最も優れているとの印象になりやすいでしょう。
その結果、フィールドセールス部門ばかりが評価され、他部門での不公平感が高まって、連携を阻害するおそれがあります。
部門を越えたサポートが難しい
状況に合わせて柔軟に人事配置を変更できないことも、分業化の弊害として挙げられるでしょう。部門によって繁忙期が異なっても、各部門で専門性を高めて対応しているため、まったく異なる業務を行なっている他の部門からサポートを得るのは難しいものです。
これらの問題を解決するためには、担当部門にかかわらず最終的な目標(KGI)や全体のルールを全員で共有すること、部門を越えてお互いの業務を労い尊重することが大切です。
部門間の連携問題については、以下の動画でも解説しています。
優先順位の問題
分業化を初めて導入する際には、成果達成のために取り組むべき業務の優先順位を明確にする必要があります。
しかし実際のところは、着手しやすく即効性が高いという理由で、優先順位を決めてしまいがちです。また、部門をまたいだミーティングを後回しにしてしまい、各部門内で完結する業務を優先的に行なってしまうこともあるでしょう。
サクラサクマーケティング株式会社でも、かつてはオウンドメディア運営など、取り組みやすいマーケティング部門を優先して注力していました。しかし、売上の土台となるサービスページをしっかりと作りこんでいなかったことが原因で、思うような成果にはつながらなかったという経験があります。
まさに優先順位を間違えていた実例です。その後、サービスページを整えたうえでオウンドメディア運営に注力し、成果を伸ばすことに成功しました。
優先順位の認識の誤りによって成果が出ないケースでは、あらためて優先順位を明確にしKGIとともに全体で共有すること、部門間のコミュニケーションを高めていくことが重要です。
以下の動画では、営業活動の優先順位の問題について解説しています。
ターゲット選定ミス
ターゲット選定を誤りやすくなることも、分業化の弊害といえます。各部門の最適化を優先するあまり、正しくターゲットを設定することが難しくなりがちです。
例えば、商品やサービスに関心を寄せている層と見込み顧客は、必ずしも一致しません。しかし、各部門がそれぞれのKPIを追い求めると両者を混同しやすくなり、単に関心を寄せているだけの見込み顧客とはいえない層にアプローチしてしまうことがあります。
また、ターゲット設定の起点として採用されやすい超潜在層はニーズが曖昧で、顧客層がブレる可能性が否定できません。実際には、既存顧客とも呼べるリピーター層を分析することが効果的です。
さらに、KPIを追い求めるためにボリュームゾーンを攻めてしまうかもしれません。しかし、施策の難度が高かったり、ボリュームがあるものの売上につながらない層を攻めたりすると、期待できる効果は薄いでしょう。
ターゲット選定を正しく行なうには、KGIを明確にしてターゲット層をしっかりと保ちブレさせないこと、チーム全体で優先順位の明確化をして業務の進捗を共有することが重要です。
以下の動画では、分業化によるターゲット選定の問題点について、さらに詳しく解説しています。
まとめ
THE MODELは、一連の営業活動を細分化することで各部門の専門性を高め、業務効率化や生産性の向上を目指す新しい概念です。BtoBマーケティングにも有効な優れたモデルとして、多くの企業が採用しています。
THE MODELでは、部門ごとに定めるゴールをKPIとすることで問題点が可視化され、営業活動の最適化を期待できる点が大きなメリットです。さらに、従来のように特定の営業担当者に依存せず、安定した業務を維持できるでしょう。
ただし、各部門のKPIにとらわれて全体の目標を見失わない、部門を越えた連携をとるためにルールを共有する、といった注意点があります。
サクラサクマーケティング株式会社では、BtoBマーケティングでも近年欠かせない施策となりつつあるオウンドメディア運営を支援しています。
企業様ごとの課題や既存顧客から想定されるターゲットをしっかりと分析し、最適な施策をご提案しますので、ぜひご相談ください。