全ての経営者にとって、マーケティングは常に重要な経営課題です。その中でも特に「独自性」や「優位性」などのマーケティング上の重要なコンセプトの策定に頭を悩ませる方は多いのではないかと思います。
・わが社にしか出来ないこととは何だろう?
・競合とのサービスを見比べても正直ほとんど同じ
・多種多様な顧客層がいる中で方向性の一本化は難しい
中小企業のマーケティング支援をしている現場でも似たような話をよく耳にします。
本記事ではマーケティングアイデアを絞り出すために有効なN=1分析とマイクロマーケティングの考え方、戦略についてご紹介いたします。
なお、本記事の執筆に当たっては『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』(http://bit.ly/2Ik707m)から多くの内容を参考にさせていただきました。
N=1分析の具体的な方法や、9セグマップなど本記事で書いている内容より深い内容がこちらの書籍には書いてありますので合わせてご参照ください。
中小企業こそアイデアや戦略が生き残りのカギになる
私:「御社の強みをお教えいただいてもよろしいですか?」
社長A:「高橋さん、我が社はしがないベンチャー企業なんです。大手企業が謳うようなかっこいい強みなんてものはありません。大手企業が進出してこないような小さな案件を一つ一つ大切に育て、案件単位の利益率は低くてもそこを何とか努力でカバーしているんです。ですが本当はもっと利益率のいい案件を獲得したいと考えているんです!」
私:「なるほど!社長は志が高くて素晴らしいと思います!(一度この方は地に足をつけて冷静に自社の立ち位置を認識する必要があるな・・・長い戦いになりそうだ・・・。)」
今、商品・サービス開発の現場ではこんなことがよく言われたりもします。
どんな商品やサービスにもすでに代替品や競合製品があり、「誰もやっていない」「見たこともない」ものはなかなか生み出せない。
モノや情報が溢れかえった現代において本当の意味でのブルーオーシャンの市場なんてものはない。
あらゆるサービス・プロダクトは市場の中で図表①の4象限に分類することが可能です。
独自性と便益という観点で分類したとき、そのプロダクト自体に便益がない(あるいは極めて薄い)場合には、どれだけ有効なプロモーションを行ったところで事業にとっての収益は一過性のものにとどまります。むしろ「あまり価値がないものを押し売りする状態」は市場を疲弊させますし詐欺的と言えます。しかし、プロダクトに一定の便益があるのであれば、コミュニケーションアイデアによって競合優位の状況を作り出すことは可能です。
裏を返せば、後発のプロダクトであってもコミュニケーションアイデアで競合を圧倒することでマーケットシェアを奪える可能性があるということです。このアイデアを戦略的に絞り出すためのフレームワークを後述していきます。
マーケティングを加速させるN=1分析によるアイデアの創出
では具体的に「マーケティングアイデア」とはどのようにして創出することが出来るでしょうか?
日本ではよくマーケティングという言葉を聞くと「市場調査のこと?」と勘違いされる方が多いほど、マーケティングの中で市場調査は重要です。市場調査は簡単に言うと「こういう商品あるんだけど、買ってみたいと思いますか?」というアンケートを、想定ターゲット層から取ることです。そのデータに基づき、どの商品がどれくらい売れるかを分析し、それをもとに広告や宣伝にかける費用を調整します。
しかし、多くの中小企業にとって「大規模な市場調査をするような資金的余裕もないし、市場調査をして出てくるような美味しいターゲットにはほとんどの場合すでに大手企業が網を張っている」という状況は珍しいものではありません。むしろ、ほとんどの中小企業のマーケティングプロセスはこの状態から始まります。
これは「マーケティング≒マスマーケティング」と勘違いしていることによる引き起こされるイメージであると私は思います。ではここから本記事の主題である「N=1分析」と「マイクロマーケティング思考」について具体的に書きます。
N=1分析のNとは「調査対象数のN」を指します。つまり、「一人の顧客へのインタビュー」によってマーケティング全体をつかさどる「アイデア」を絞り出そうという手法です。
このN=1分析ではデータの広さや一般性よりも、深さに重点を置いて調査を行います。特に「購買に至ったきっかけ」の深い動機についての問いかけを直接インタビューの中で行います。
ご自身の経験の中で「お客さんとの会話の中で事業へのアイデアを得た」ことや「クレーム内容が逆に行き詰まっていた商品開発にアイデアを与えてくれた」なんてことがあるのではないでしょうか?あるいは懇意の顧客との会食の席で「自分で気づいていなかった自社の強み」を褒めていただいた、なんてことはないでしょうか?
N=1分析という手法は、このような現場体験に基づく分析を、再現性を持ったマーケティングプロセスとして取り入れる仕組み(フレームワーク)です。
N=1が重要、ラブレターを書くようにマーケティングアプローチを行う
美しい女性を口説こうと思った時、ライバルの男がバラの花を10本贈ったら、君は15本贈るかい??そう思った時点で君の負けだ。ライバルが何をしようと関係ない。その女性が本当に何を望んでいるのかを、見極めることが重要なんだ。
この言葉は、稀代のマーケターといわれるアップル創業者のスティーブジョブズの名言です。これもマイクロマーケティングに通ずるところがありますね。マーケティングの発想で良く「ラブレターを書くように」マーケティングをする、ということがよく言われます。
一人のユーザーに焦点を当てるという点で、「ペルソナ」と考え方は非常に似ていますが決定的な違いは「実在するユーザー」を起点に着想をするという点です。
連続起業家として知られる家入一真さんは、BASE立ち上げの際のインタビューでこんなことを話されていました。
このサービスは代表である鶴岡くんから「実家の母親がネットショップをやりたがっているけれど、どうすればいいか分からず困っている」と聞き、「もしかすると、鶴岡くんのお母さんみたいな人が世の中にたくさんいるかもしれない。鶴岡くんのお母さんが喜ぶサービスを作ろう」という発想から誕生しました。」”
家入一真が語る、新サービスを作るコツとは
これはサービス開発の際にも同様に役立つ視点といえるのではないでしょうか?
また、『実践 顧客起点マーケティング』をの作者である西口一希さんのインタビューではN=1分析の実践の現場でのこんなエピソードが印象的でした。
ある熱心なユーザーがこんなことを言ってくれたんです。
「このベタベタこそが、肌ラボの最大の魅力じゃないですか」
それを聞いた瞬間、ここだ!とひらめきました。それまでは化粧水は水にアルコールを入れたものが主流で、すぐ浸透するけど肌には決していいものではなかった。それに比べて「肌ラボ」は、本当に肌にいいものを作りたいということがコンセプトで、そのためにヒアルロン酸をたっぷり含んでいる。それがベタベタの理由なのですが、このユーザーの声を聞いたときに、これは欠点ではなく、最大のアピールポイントだと気づいたんです。
ヒット商品を次々と生み出す「N1マーケティング」の極意
こちらの視点では、後発で開発されたプロダクトであっても、マーケティング上のコミュニケーションアイデアをとがらせていくことで、プロダクトの価値を存分に引き出している好例と言えるのではないかと思います。
どのようにして価値の高いN=1を抽出するのか
顧客の中には、良い顧客とそうでない顧客がいます。また、顧客になりそうで実際はお試しをするだけで購買に至らないようなユーザーもいます。N=1に絞ってマーケティングアイデアを抽出するわけですから「自社にとって価値の高い」情報を提供してくれる顧客へのインタビューをしなければなりません。結論を言うと、N=1の選定の仕方はその時に抱えているマーケティング上の課題によって変わってきます。
図表③はマーケティングに携わる人にはおなじみの顧客層ファネルです。
顧客が5階層のうちどれにあてはまるかは3つの質問で分類することができます。
・商品やサービスを知っているか?
・買ったことがあるか?
・どれくらいの頻度で買っているか?
3つの質問については図表④にまとめました。
顧客を5つに分類したら次に「どの層からどの層への転換率を向上させることで課題が最も効率よく解決されるか?」を検討します。
例えば、「ロイヤル顧客を増やしたい」ということが整理できたとしたら抽出するN=1はロイヤル顧客から選定し、「なぜロイヤル顧客化しているのか?」の本質を深くインタビューします。
購買に至ったきっかけや、ブランドを好きになったきっかけやタイミングは複雑な要因があるように思えますが「決定的な意思決定要因」はたいてい一つに絞られます。例えば「ショップ販売員さんの説明が真摯で好感を持てたからブランド自体の信頼度が一気に上がり、ロイヤル顧客化した」のような形です。このようなインサイトが発見された場合、次なるマーケティングアプローチでは「販売員の話をぜひ聞いてください」というメッセージに変える。このような流れで施策への落とし込みを行います。
中小企業、零細企業であるほどに戦略が重要
いかがでしたでしょうか?
弊社ではマーケティングを考えるときにUSP(Unique Selling Position)が何なのか、ということを重視しています。特にSEO対策においては、「競合の真似」をするだけのコンテンツでは今までのように上位表示することが難しくなってきています。
とはいえ、ビジネス上のインパクトの大きいビックワードで自社サイトを上位表示したいという要望は根強いものがあります。
これを実現し、達成するためには「自社だからこそ提供できる情報」が非常に重要となってきます。そして、「自社だからこそ提供できる情報≒自社の有効見込み客が欲しがる情報」という状況を作り出すためにもN=1の絞り込みと深いインサイトを分析するためのインタビューが重要になってきます。
サクラサクマーケティングではWEBマーケティングを一過性の施策としてとらえるのではなく、「再現性のある仕組みを作り運用すること」と考えています。これまで経験則で行ってきた顧客の声集めや、クレーム処理などの顧客との触れ合いの中から、新たなマーケティングアイデアを常時拾い集める仕組みを作り、自社マーケティングを成功へと導くためのフレームワークを紹介させていただきました。
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また当社ではWEBサイトの無料診断も行っておりますので、施策の方向性についてお悩みの方はぜひご相談ください。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。